高断熱住宅が脳血管系疾患による健康損失期間を17%削減する可能性を確認

~住環境研究所とみずほリサーチ&テクノロジーズが「DALY*1」を用いて推計~

株式会社住環境研究所/2025年02月18日

株式会社住環境研究所(所長:太田真人、千代田区内神田1-14-10)は、みずほリサーチ&テクノロジーズ株式会社(社長:吉原昌利、東京都千代田区神田錦町2-3)と共同で、高断熱住宅と低断熱住宅が健康に与える影響について、病気や障害によって健康な生活を送れない年数を数値化した指標「DALY*1」に基づく検証を実施しました。その結果、高断熱住宅に住み続けることで老齢期の健康ロスを抑制する可能性を示す結果が得られましたのでお知らせします。

調査結果のポイント

本調査では、住宅の断熱性能が健康損失に与える影響を明確にすることを目的として、「断熱等性能等級5、6、7相当(高断熱)」の住宅と「断熱等性能等級3相当(低断熱)」の住宅に住んだ場合の、人口10万人の健康損失期間の総量(DALY*1)を比較・分析しました。

1. 25歳以上の脳血管系疾患(脳梗塞・脳出血など)*2について、「断熱等性能等級3相当」と「断熱等性能等級6相当」を比較した結果、DALY*1は17%削減される可能性があると推計されました*3。

2. 同様に「断熱等性能等級3相当」をベンチマークとして等級ごとのDALY削減率*3を見ると、断熱性能が高くなるほど削減効果が大きくなる可能性があることが確認されました。

3. DALY削減率*3を年齢層(男性)ごとに比較すると、例えば脳梗塞では、30歳代の16%に対して、50歳代・60歳代では19%と高い結果となり、高齢層ほど健康損失期間の削減効果が大きくなる傾向が見られました。

■調査研究の背景

近年、脱炭素社会の実現に向けた制度整備が進んでおり、2025年4月に新築住宅における省エネ基準(断熱等性能等級4相当)への適合が義務化されました。加えて2030年度以降の新築におけるZEH水準の確保を見据え、省エネ基準の段階的な引き上げが示されており、省エネ性能を重視する動きが一層強まっています。
また世界保健機関(WHO)の健康指標や関連研究*4からも、断熱性能と疾患リスクの低減や生活の質向上、生活満足度に関連性が見られることが示唆されるなど、断熱性の良い住まいは健康的な生活基盤の構築の一助となることが期待されつつあります。高断熱住宅を普及させるためには、様々な視点でのさらなる断熱効果に関する実証が必要です。
今回、当社とみずほリサーチ&テクノロジーズは、断熱性能がもたらす「循環器疾患」発生予防による健康期間の延伸の可能性を健康価値ととらえ、DALY*1により可視化を試みました。なお、基礎データの提供はワシントン大学医学部保健指標評価研究所(IHME)に協力を得ました。

■「DALY*1」とそれに基づく調査研究の意義

DALY*1は「Disability-Adjusted Life Year」の略で、「障害調整生存年数」と訳され、健康上、どの病気や外傷が社会に大きな損失をもたらしているかを比較し、医療政策・予防戦略に用いられています。ハーバード大学(クリストファー・マーレー教授らが開発)により世界銀行のために1990年に開発されたものであり、WHO がこの手法を2000年から採用しています。
DALY1単位は「健康な1年間」の損失分を意味しており、早期死亡によって失われた寿命(YLL;Years of Life Lost)と障害や病気による損失期間(YLD:Years Lived with Disability)から構成されます。例えば、ある病気が原因となり40歳で亡くなった場合、平均寿命を80歳とすると YLLは40年です。また、重度のうつ病で10年間過ごした場合、その影響度(障害 ウェイト)が 0.6ならYLDは10年 ×0.6 = 6年となります。このYLLとYLDの合計値 がDALY*1であり、「健康でいられなかった合計の年数」を表します。
今回の調査の目的は、これまで経験則で示されていた住宅の断熱向上効果をDALY*1 という指標を用いて、わかりやすく数値(エビデンス)で表すことです。本調査におけるDALY*1の数値は、人口10万人あたりが失う健康生活期間の総量を示しています。

■調査研究の概要

・検証プロセス

①断熱性能の変化シナリオ(検証対象)として、断熱等性能等級3相当の住宅⇔断熱等性能等級5、6、7相当の住宅を設定
②温度差がもたらす血圧変動に着目し、室温、年齢、性別による血圧推計式をオリジナルで作成。係数、変数は先行研究 (UmishioW, et al. 2019.*5)を参考にした。
③シナリオ毎に早朝(5時)の室温をシミュレーション*6より算出
④GBDツール*7 より得られるデータ(性・年齢別DALY および 疾患別・性・年齢別相対リスク値)を用いて推計式をオリジナルで作成、血圧変動のリスクから疾患発生*2のリスクとして DALY(10万人)を算出
②④はみずほリサーチ&テクノロジーズにて実施
①③は住環境研究所にて実施

注釈

*1 障害調整生存年数(DALY) は、ワシントン大学医学部の保健指標評価研究所 (IHME) の世界疾病負担 (GBD) データセットを基にしている。GBDデータセットはIHMEから許可を得て使用している。
*2 疾患発生は、脳血管系の疾患として脳梗塞、脳出血、くも膜下出血の3つ、高血圧に起因する心血管系の疾患として虚血性心疾患、高血圧性疾患、心房細動及び心房粗動、大動脈瘤、末梢血管疾患の5つを対象とした。
*3 削減率データは脳血管系(脳梗塞、脳出血、くも膜下出血)、心血管系(虚血性心疾患、心房細動及び心房粗動、大動脈瘤)のDALYを集計。また、省エネ地域区分5地域以南の結果を表す。年齢層毎は男性の結果を表す。
*4 日本サスティナブル建築協会:住宅の断熱化と居住者の健康への影響に関する全国調査~国土交通省スマートウェルネス住宅等推進事業調査に基づく医療経済評価~(25年2月)
*5 UmishioW, et al. Cross-Sectional Analysis of the Relationship Between Home Blood Pressure and Indoor Temperature in Winter: A Nationwide Smart Wellness Housing Survey in Japan. Hypertension. 2019.
*6 温熱シミュレーションは、「SimHeat」にて算出。省エネ地域区分は1~3地域、4地域、5地区以南の3区分。空調はエアコンを想定。
*7 GBDは、ワシントン大学医学部の保健指標評価研究所 (IHME) による世界的な疾病負荷データセットである。GBDデータセットは、DALYのベースライン情報とするためにIHMEから許可を得て使用している。

留意点

・厳密な推計や先行研究の完全な再現は実施していないため、推計結果は過少・過大にもなり得ることがあります。
・本リリースの内容は、当社関係会社の住宅商品に居住した場合の効果を示したものではありません。

住環境研究所 太田真人所長 コメント

高断熱住宅の社会的意義は、温熱環境の向上と環境負荷軽減にあります。今回の検証では、断熱性能の異なる住宅に住む人の健康期間の差を、GBDツールを用いて算出したDALYから健康損失期間を比較分析しました。その結果、高断熱住宅に住むことでDALYが削減される可能性が確認されました。高断熱住宅はエネルギー効率が高く、暖房や冷房の使用量を減らすことで温室効果ガスの排出を抑制することが知られています。
これらにより、高断熱住宅は健康とエネルギー効率の両面で大きく貢献できる可能性が示されました。今後もさらなる研究を通じて持続可能な社会の実現に向けて尽力していきます。

みずほリサーチ&テクノロジーズ コメント

本調査では、断熱住宅がもたらす健康インパクトを、室温・血圧の変化に基づく健康期間の延伸と捉え、定量的に把握しました。今後さらなる研究を進め、住宅性能に対する投資が生み出す価値が明確になることで、住環境改善に関する政策など、様々なレベルでの意思決定や、企業の非財務価値の可視化などに活かされることを期待します。

この件に関するお問い合わせは
下記までお願いします

株式会社住環境研究所 嘉規(かき)、佐藤 
TEL. 03-6275-0450

〒101-0047 東京都千代田区内神田
1-14-10 PMO内神田9階

HP:https://www.jkk-info.jp 
お問合せ:https://www.jkk-info.jp/inquiry/