住宅地の将来を左右する3つの要素
~「災害に強い住まい」 「防犯性が高い住まい・まち」 「日常の買い物が便利なまち」~
株式会社住環境研究所/2025年02月25日
このたび当研究所は、駒澤大学の西山弘泰准教授の協力のもと、住宅地の将来を左右する要素を整理し、その構造を明らかにすることを目的として、住み継がれていると思われるエリア(以下、住み継がれエリア)に在住する100名と、衰退していると思われるエリア(以下、衰退エリア)に在住する100名を対象にアンケート調査*1を実施しました。
本調査では、周辺のまち・住宅地・住まいに関する満足点・不満点について回答を得ました。あわせて、当研究所が独自に設定した周辺のまち・住宅地・住まいを評価する88の項目*2について、「永く住み続けるために必要だと思う項目」および「現在不足している項目」を複数回答で選択していただきました。
その結果、住宅地が住み継がれていくか否かを左右する3つの要素が明らかとなりました。
*1:■調査時期:2025年11月29・30日 ■調査エリア:沖縄県を除く全国 ■調査方法:クロスマーケティング社のモニターへのWebアンケート調査(計34問) ■対象者:①戸建住宅を所有、または戸建住宅に住む親族と同居する25歳以上の方 ②概ね築30年以上、かつ半径100m以内に30棟以上の住宅が連なって建っている住宅地に在住 ■衰退エリアと住み継がれエリアの定義方法:住宅地の衰退を示す「空き家が増加している」「家の代替わりがされていない」「新規購入者がいない」の3点のうち、2つ以上が該当するエリアを「衰退エリア」、1つのみ該当、または該当しないエリアを「住み継がれエリア」と定義 *2:88項目のカテゴリー別内訳は、安心・安全(23項目)、住環境(26項目)、近接性(20項目)、環境共生(10項目)、地域共生(9項目)
■両エリアにおける生活環境に関する評価傾向
周辺のまちと住宅地に関する満足点・不満点を自由記入方式で回答いただいた結果、周辺のまちについて「不満点なし」と回答した人の割合は、住み継がれエリアの方が16ポイント高い結果となりました(図1)。
また、住宅地については、「不満点なし」と回答した人の割合は住み継がれエリアの方が約2倍多く、24ポイントの差となりました(図2)。一方で、住み継がれエリアにおいても、駅や商業施設までの距離を不満点として挙げる回答が一定数確認されました。
■両エリアで共通の「永く住み続けるために必要だと思う項目」
「現在該当するか否かを問わず、永く住み続けるために必要だと思う項目」について複数回答で得られた結果のうち、住み継がれ・衰退いずれのエリアでも、支持数が多かった項目のランキング*3が図3です。
カテゴリー別に見ると、耐災害や防犯など「安心・安全」に関する5項目が上位を占めています。これらは特定の空間レベルに限定されるものではなく、住生活全体において広範囲での安心・安全性が求められていることを示しています。また、商業施設や駅、医療施設への「近接性」に関する項目が5つランクインしており、日常生活を支える基盤的な機能が「安心・安全」と並んで重視されていることが分かります。
さらに、周辺のまち・住宅地・住まいという領域別に見ると、周辺のまちが6項目、住宅地が4項目、住まいが5項目となっており、3つの領域がバランスよく成立していることの重要性がうかがえます。
*3:優先順位は、衰退エリア+住み継がれエリアの支持数の合計、合計数が同数の場合は、衰退エリアで支持数が多い項目、の順
■住宅地の将来を左右する3つの要素
周辺のまち・住宅地・住まいを評価する88項目について、同一項目で「永く住み続けるために必要だと思う」支持数を横軸(右へ行くほど重要度が高まる)に、「現在不足している」支持数を縦軸(上へ行くほど不足度が高まる)にプロットしたのが図4です。その結果、住み継がれエリア(▲)の回答は下半分の充足領域に多く分布する一方、衰退エリア(●)の回答は上半分の不足領域に多く分布していることが確認されました。また、右上の第1象限に位置するのは、「重要でありながら不足している項目」となりますが、特に支持数が多かった11項目は図5の“項目A”となりました。
さらに同様の分析を、今度は完全住み継がれエリア*4(n=62)と完全衰退エリア*5(n=44)で行うと、「重要でありながら不足している項目」は、“項目B”の7項目に絞られ、カテゴリーは「安心・安全」と「近接性」の2つに集約されました。
その7項目を整理した結果、「災害に強い住まい」「防犯性が高い住まいとまち」「日常の買い物が便利なまち」の3つとなり、本研究ではこれらを「住宅地の将来を左右する3つの要素」と定義しました(図6)。
*4:衰退を示す3点がすべて該当しないエリア *5:衰退を示す3点がすべて該当するエリア
研究員のコメント
調査を着手する前までは、住宅地の将来に大きな影響を与えるのは、付近に駅がない、あるいは駅まで距離が遠いといった交通利便性の低さではないかと想定していました。しかし実際には、「最寄り駅まで徒歩15分以内で行ける」という項目について不足(=不満)を感じている人数は、衰退エリアが14人であったのに対し、住み継がれエリアでは20人と、予想とは異なる結果となりました。
今回の調査で得たすべての結果から、「住宅地が住み継がれていくか否かを左右する要素」は、単純な立地条件の優劣にとどまらず、多少の不便さが存在していてもそれを補完する対災害性や防犯性、日常の買い物の利便性といった要素が備わっていれば、生活全体として受容され得る可能性が示唆されます。とりわけ防犯については、防犯カメラなどのハード整備が有効であることは言うまでもありませんが、それ以上に、住民同士の顔が見える関係性や日常的な声掛け、地域を自ら守ろうとする自治の意識が安心感の基盤となると考えられます。
一方、衰退エリアでは、こうした補完関係や人のつながりが弱まり、不満が蓄積しやすい構造にあることがうかがえます。この差こそが、「衰退する住宅地」と「住み継がれる住宅地」を分ける本質的な境界であると言えるのではないでしょうか。
ただし、こうした状況は決して不可逆的なものではありません。行政と自治会(町内会)の連携による仕組みづくりに加え、企業や個人がそれぞれの立場で重要な要素を面的に組み合わせていくことで、衰退に向かいつつある住宅地であっても、再び住み継がれていく住宅地へと転換していく可能性は十分にあると考えています。(古谷)