「立地重視」から「住み心地も重視」へ
~若年層の賃貸選びに起きている変化~
株式会社住環境研究所/2026年08月24日
持家着工数が減少するなか、賃貸住宅市場は底堅く推移しています。さらに、「借家で構わない・借家が望ましい」と考える人の割合は2015年度の13%から2023年度には18%に上昇、そのうち若年層は2015年度16%から2023年度26%に上昇したことが分かっています※1。いまや若年層にとって賃貸住宅は、一時的な住まいではなく、永続的な住まいになり得る存在です。また、住生活基本計画(全国計画)では、「若年世帯や子育て世帯が希望する住まいを確保できる社会の実現」を掲げ、若年・子育て世帯に向けた住まいの選択肢を充実させることを目標として示しています※2。こうした中、若年層の賃貸住宅に対するニーズや価値観を把握することは、今後の住まいづくりや既存ストックの活用を考えるうえで、ますます重要になっています。
住環境研究所は、生活者の視点から住まいと暮らしの変化を捉え、長期的な視点で住宅や住環境に関する研究を行ってきました。今後は、賃貸ニーズの高まりを受け、賃貸住宅に対する価値観やニーズの変化についても継続的に調査・研究を行い、その変化の兆しを発信していきます。
その第一弾として、今回は、2021年と2026年の調査結果を比較し、若年層の賃貸選びにどのような変化が起きているのかを分析しました。その結果、若年層の賃貸住宅選びでは、立地や利便性に加え、住環境や安心感に関わる要素への関心が高まっていることが分かりました。また、自分の時間や空間を確保しながら心身を休められる暮らしへのニーズもうかがえました。
■若者が求めるのは「便利な場所」より「安心・快適な暮らし」
若年層の賃貸探し重視点を2021年と2026年で比較すると、「家賃」「部屋の広さ」「築年数」は引き続き上位に位置する一方、5位以下では重視項目の順位に変化が見られました。「部屋の日当たり・通風」は11位から5位へ、「防犯セキュリティ」は14位から8位へ、「床や壁の遮音性」は17位から12位へ上昇しました。また、「ペット可」も25位から17位へ大きく順位を上げています。一方で、「周辺の利便性(通勤・通学、買い物、病院施設など)」は5位から12位へ順位を下げています(図表1)。また、単身やファミリーといった家族構成別にみても、「部屋の日当たり・通風」「防犯セキュリティ」「床や壁の遮音性」「ペット可」の順位が上昇する一方、「周辺の利便性(通勤・通学、買い物、病院施設など)」は順位を下げており、こうした変化は単身者に限らず若年層全体に共通してみられました。
■若者が求めるのは「ととのう暮らし」
次に、2026年調査では、2021年調査で実施していなかった「若者が魅力を感じる賃貸住宅での暮らし方」について、新たに調査を行いました。これは、若者が住まいに求める条件だけでなく、その住まいでどのような暮らしを実現したいと考えているのかを把握し、住まいに対する価値観をより深く捉えることを目的としたものです。その結果、若者が賃貸住宅に求める暮らし方として、心身を休めながら自分らしく快適に過ごせる住環境へのニーズが高いことが明らかになりました。
魅力を感じる賃貸住宅での暮らし方として「とても魅力的だ」「どちらかというと魅力的だ」と回答された割合を見ると、「①一人時間と二人時間をバランスよく確保できる賃貸*」(86%)、「②疲れを取れる・深く休息できる賃貸」(85%)、「③同居でも一人になれる時間や空間がある賃貸*」(83%)など、休息や自分時間に関する項目が上位を占めました。
また、「④光熱費を抑えて暮らせる賃貸」(74%)や「⑤自然光や風を活かして暮らせる賃貸」(73%)も高い評価を得ており、快適性と経済性の両立を重視する傾向も見られました。特に「⑤自然光や風を活かして暮らせる賃貸」の評価の高さは、図表1において順位が上昇していた「部屋の日当たり・通風」への関心とも一致しており、住環境そのものがもたらす心地よさへのニーズの高まりを示していると考えられます。
一方、「⑫社会的な成功を感じられる賃貸」(59%)や「⑬パーティーを開きやすい賃貸」(40%)など、ステータス性や対外的な評価に関わる項目は相対的に低い結果となりました(図表2)。
研究員のコメント
2021年と2026年の比較から見えてきたのは、若年層の賃貸住宅選びにおいて、「どこに住むか」だけでなく、「そこでどのように暮らせるか」の重要性が高まっていることです。実際に、「周辺の利便性(通勤・通学、買い物、病院施設など)」の順位は低下する一方で、「部屋の日当たり・通風」「防犯セキュリティ」「床や壁の遮音性」など、住まいの居住環境や安心感に関わる項目は順位を上げていました。こうした背景には、在宅勤務の浸透やネットショッピング・デリバリーサービスの普及などにより、以前ほど立地条件だけが暮らしやすさを左右しなくなっていることもあるのかもしれません。
また、2026年調査で新たに実施した「魅力を感じる賃貸住宅での暮らし方」に関する調査では、「一人時間と二人時間をバランスよく確保できる」「疲れを取れる・深く休息できる」「同居でも一人になれる時間や空間がある」といった項目が上位を占めました。これらの結果から、若年層は、他者との共同生活のなかでも自分の時間や空間を確保しながら、心身をしっかりと休められる暮らしを理想としていることがうかがえます。
今回の結果は、賃貸住宅に求められる価値が「立地や利便性」だけでなく、「暮らしの質」へと広がりつつあることを示しているのではないでしょうか。今後の賃貸住宅には、立地条件に加えて、日当たりや通風、遮音性、防犯性などの居住環境を高め、入居者が安心して長く心地よく暮らせる住環境を提供することがより重要になっていくと考えられます。
※1 国土交通省「土地問題に関する国民の意識調査結果」の概要
令和5年度
平成27年度
※2 国土交通省「住生活基本計画(全国計画)」(2026年3月閣議決定)